2020年 10月19日 月曜日
俺のセブ島留学 フィリピンニュース 政治経済 新型コロナウイルス騒動の余波 フィリピンはなぜ台湾からの入国...

新型コロナウイルス騒動の余波 フィリピンはなぜ台湾からの入国を禁止したのか?

※この記事は、2020年2月19日初回公開です。

中国の武漢から流行(アウトブレイク)した新型コロナウイルスは、中国全土はおろか世界各地に飛び火し、各国は感染防止のための水際対策に追われています。

今回はフィリピンの感染防止策の続報を、お届けします。

随時更新
新型コロナウイルス|フィリピン入国制限とセブ島の状況【最新情報】

1.突然下された台湾からの入国禁止


2月10日の夜、衝撃的なニュースが入ってきました。新型コロナウイルスの感染防止策としてフィリピンでは2月2日より、中国全土と香港・マカオから訪れる外国人の入国を禁止(永住権を持つ人を除く)していますが、その対象地域に新たに台湾を含めると声明を出したのです。

しかも猶予はまったくなく、声明が出された時点で即時適用となったため、フィリピンの国際空港は対応に追われることになりました。入国禁止が発表される前に、すでに台湾からフィリピンに向けて出発していた旅客機があったためです。セブやマニラの空港にて、台湾人約150人が入国を拒否され、送還される事態となりました。

発表を受け、フィリピンの航空各社は台湾便の運航を即座に停止しています。

台湾からの入国が禁止されたことは、フィリピン留学の語学学校にとっても大打撃となりました。フィリピン留学生のなかで日本人・韓国人に次いで多いのが、台湾人留学生だからです。

他にも台湾の中小企業の多くがフィリピンに進出しているだけに、入国禁止にすることでフィリピンの経済にも悪影響を及ぼすことは必至です。

では、いったいなぜ、フィリピンは台湾から来る外国人の入国を禁止したのでしょうか?

純粋に新型コロナウイルスの感染防止策の一環と見ることはできません。台湾はいち早く中国全土からの渡航を禁止する措置を徹底したことが功を為し、感染者の数は18人に留まっています。

日本やシンガポール・タイなど、台湾を上回る感染者を出している国はいくつもあります。それなのに台湾だけに入国禁止を適用するのでは、矛盾しています。

実は台湾を入国禁止の対象国に含めた理由についてフィリピン側は、はっきりした理由を述べています。

入国禁止は中国の掲げる「一つの中国原則」に基づくものであると明言し、フィリピンが台湾を中国の領土と見なしていることを受けた措置であると説明しています。

フィリピンが錦の御旗として掲げた「一つの中国原則」について紹介する前に、2月14日、フィリピンが台湾からの入国禁止を解除した背景について追いかけてみます。

2.解除の背景

フィリピンによる予想だにしなかった入国禁止の決定を受け、台湾は即座に猛反発しました。台湾国防部(国防省)はフィリピンの決定を「不当で一方的」と非難し、報道官は記者団に対し「台湾と中国の混同はわが国、そして国際社会に問題をもたらす」と警鐘を鳴らしました。

さらに台湾外交部(外務省)は「台湾は断じて中国の一部ではなく、省でもない。中国の感染地域にも含まれておらず、台湾での感染はコントロールされている」と入国禁止措置の撤回を求め、台北経済代表処は「中華民国(台湾)は独立国家であり中国の一部であったことはない。台湾に渡航禁止措置を取っているのはアジアでフィリピンのみだ」と、怒りを露わにしています。

もちろん、台湾が単に言葉による牽制だけに終わるはずもありません。

フィリピンと台湾は過去にも「一つの中国原則」が元で、外交問題に発展したことがあります。発端となったのは、2013年5月9日、フィリピンと台湾の双方が排他的経済水域であると主張するバリンタン海峡において、台湾漁船がフィリピン沿岸警備隊による銃撃を受け、船員の1人が死亡した事件です。

排他的経済水域(略称 EEZ)とは、「沿岸国が水産資源や海底鉱物資源などについて他国の干渉を許すことなく管轄権を行使しうる水域のこと。領海を越えてこれに接続する区域で、領海基線から 200カイリの範囲を指します。

この事件では、フィリピン側は漁船の逃走を止めるためにエンジンのある操縦室に向けて2発撃っただけで「意図的行為ではない」と主張しましたが、台湾側は50箇所以上の弾痕が見つかっており、しかも船員が隠れた場所に集中していることから故意による「血も涙もない殺人行為だ」とフィリピンを批判しました。

フィリピンと台湾による排他的経済水域をめぐる衝突は、これまでも頻発しており、台湾側は話し合いを求めてきましたが、フィリピン側は「一つの中国原則」を盾に、そもそも国家として認めていない台湾と話し合いなどできないと突っぱねていました。

「台湾漁民銃撃事件」によって犠牲者が出たことで台湾はフィリピンに謝罪と賠償を求めましたが、フィリピン政府はメディアに対し「一つの中国原則に基づき国交のない台湾に謝罪すべきではない」と語ったため、台湾の世論は怒りに染まりました。

世論に押されるように台湾政府は5月15日、フィリピン人労働者の就労申請凍結などの制裁措置を発動しました。これに慌てたベニグノ・アキノ大統領は個人名義で「深い哀悼(あいとう)の意と謝罪」を表明しましたが、台湾の怒りは収まることなく、さらに経済交流の中止や渡航自粛勧告などの追加制裁を行うに至っています。

この事件での教訓があるだけに、今回の新型コロナウイルスの感染防止策において、ことさら台湾を刺激する「一つの中国原則」を理由に入国禁止に踏み込めば、台湾がフィリピン人のビザなしでの入国を停止することはもちろん、最悪、台湾が再びフィリピン人労働者の就労申請凍結などの報復措置をとることは目に見えています。

現在、台湾で働いているフィリピン人は「台湾認可フィリピン人斡旋(あっせん)業者」(PILMAT)によると18万人とされています。もし、台湾がフィリピン人労働者を本気で締め出す事態となれば 18万人が職を失う可能性があるだけに、事は深刻です。同組合は「フィリピンと台湾の外交貿易関係を危険にさらす」と渡航禁止に反対する声明を発表しました。

ベリョ労働雇用相も「(台湾に在留する)フィリピン人海外就労者(OFW)に有害な可能性がある」として、台湾からの入国禁止の解除を求める意向を明らかにしています。

このような国内の動きを受け、13日にパネロ大統領報道官は「渡航禁止は『一つの中国』とは関係がない」と前言を撤回する発言を行い、「大統領の一番の関心は国民の安全だ」と釈明に追われました。

しかし、「国民の安全」と台湾からの入国禁止が結びつかないことは、先に説明したとおりです。

結局その翌日の14日、フィリピン大統領府は「台湾が新型のコロナウイルスに対する厳格な措置を取っていることが確認された」として、台湾からの入国禁止措置を撤回すると発表しました。

つまり、台湾からフィリピンに入る外国人の入国が禁止されたのは、10日の夜から14日までの短い期日に過ぎなかったことになります。その間、入国を拒否された方はお気の毒としか言いようがありません。

入国禁止にしておきながら4日後に解除した後味の悪さから推し量れば、今回の一件はドゥテルテ大統領の勇み足であったようにも見受けられますが、果たしてどうでしょうか?

新型コロナウイルス対策においてドゥテルテ大統領が数々の強硬措置をとれたのは、今も8割を超える国民の圧倒的な支持があるからこそです。

麻薬撲滅戦争にしても中国全土からの入国禁止にしても、フィリピンの大衆が今、何を望んでいるのかを見極める卓越した嗅覚を、ドゥテルテ大統領が備えていることは間違いありません。

国民が本当に望んでいることを見抜くことができず、新型ウイルス蔓延の危機感が高まるなか、相変わらずサクラ問題の質問ばかりを繰り返す日本の野党とは大違いです。野党の支持率が5%ちょっと、あるいは1%にも満たないのは当然の結果といえるでしょう。

そのドゥテルテ大統領が台湾からの入国禁止を強行したことには、違和感を覚えます。台湾が報復措置としてフィリピン人労働者を閉め出すことは、十分に予測できたはずです。そのことが国民の支持を得られないことも、当然理解していたことでしょう。

それでも強行したということは、初めから数日内に解除することを前提に入国禁止に踏み切ったと考える方が自然です。

では、なぜ、そうまでして台湾からの入国禁止を強行したのでしょうか?

そこに、中国への忖度(そんたく)が浮かび上がってきます。

3.「一つの中国原則」とは何か?

今回の一件では、フィリピンが台湾からの入国を禁止したという事実そのものが注目されがちですが、「一つの中国原則」に基づき、フィリピンが台湾を中国の一部と見なして入国禁止にしたという、その動機付けの方が、はるかに重要な意味合いを持っています。

なぜなら、中国が一方的に主張する「一つの中国原則」をフィリピンが支持していることを、国際社会に向けてアピールしたことになるからです。

今回のフィリピンが見せた対応を、中国が喜んだことは間違いありません。「一つの中国原則」と台湾問題は中国にとっての核心的利益であると、中国は何度も主張してきたからです。

「核心的利益」とは、中国が自国の体制・政治制度・社会の安定・経済発展などを維持するために断固として保護することを明言している、中国にとっての重要な利益のことです。

チベットや南シナ海、尖閣諸島など、中国の核心的利益は多岐に渡っていますが、なかでも「一つの中国原則」は最重要と位置づけられています。

中国が重要視する台湾問題について、フィリピンが中国の主張を全面的に受け入れることを東南アジア各国に率先して見せたことは、中国に対する大きなポイント稼ぎになったといえそうです。

中国としては「一つの中国原則」を多くの国に承認させることで、台湾を名実ともに自国の一部に組み込むことを狙っています。

では「一つの中国原則」とは、どのような原則なのでしょうか?

具体的には次の三段論法から成り立っています。

1)世界で中国はただ一つである
2)台湾は中国の不可分の一部である
3)中華人民共和国(中国)は中国を代表する唯一の合法政府である

この原則を見て、首をかしげる方は多いことでしょう。

日本では中国と台湾は別々の国として扱われているからです。たとえばニュースでも中国と台湾が混同されることはなく、それぞれ別の国の出来事として報道されています。旅行ガイドブックにしても、中国編と台湾編できちんと分かれています。台湾旅行をする人が自分は中国の土を踏んでいるのだと意識することなど、まずないといってよいでしょう。

日本人の大半は、台湾と中国はそれぞれ別個の独立国家であると思っているはずです。

ところが、細かいことに気を付けてみると、台湾の抱える辛い現実が透けて見えてきます。たとえばオリンピックです。

オリンピックで「台湾」という国名を見かけることはありません。

台湾の正式な国名は「中華民国」ですが、オリンピックでは「台湾」や「中華民国」の国名で参加している選手を見つけることはできません。台湾から出場している選手団は「チャイニーズタイペイ」という名称で参加しているからです。

直訳すれば「中国の台北」という意味になります。台湾の選手が金メダルを取っても、台湾の国旗を揚げることも国歌を流すことも許されていません。国旗の代わりに「チャイニーズタイペイオリンピック委員会の旗」が揚げられ、国歌の代わりに「国旗歌」が流されることになっています。今年開催される東京オリンピックでも同様です。

なぜ、台湾が自国の国名を堂々と名乗ってオリンピックに参加できないのかといえば、中国による圧力がかかっているためです。

中国は台湾を独立した国家とは認めていません。あくまで自国の領土の一部であると主張して譲りません。こうした中国のロジックからいえば、中国の一つの省に過ぎない台湾が独立した国家としてオリンピックに参加するのはおかしい、ということになります。

台湾は長いことオリンピックに参加していませんでしたが、オリンピック委員会の仲介によって1984年のサラエボオリンピックから「チャイニーズタイペイ」の名称で、オリンピックに復帰することになったのです。

中国による圧力はオリンピックに限らず、様々な場所で繰り返されています。

現在、国連や国連に付随するWHOなどの組織からも、台湾は除外されています。そのため、国際的には独立国家として承認されていません。

日本も同様で、台湾を国家としては認めていません。国家でない以上、あらゆる国際条約を台湾との間で結ぶこともできません。正式な国交もありません。

ただし、日本は台湾との間に特別パートナーシップ関係を築き、交流を深めています。「一つの中国原則」については、「3)中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府である」ことは承認していますが、「1)世界で中国はただ一つである」と「2)台湾は中国の不可分の一部である」については、「中国政府の立場を十分理解し尊重する」と述べるに留めています。

つまり、日本は1)と2)については「承認していない」ということです。アメリカも同じようなスタンスを取っています。

現在、台湾が国交のある国は、世界でたった15カ国のみです。いずれも小国です。その15カ国のみが台湾を独立国家として認めているにすぎません。

台湾と国交のある国は次第に減少しています。なぜなら台湾と国交のある国に対して、中国が資金の援助や融資を与えることを条件に、台湾との国交断絶を迫っているからです。

単純にいえば、大国中国による台湾いじめが横行している、ということです。

「一つの中国原則」に対して台湾は反発しています。もっとも台湾にも二つの勢力がありました。国民党による親中派と、民進党による台湾独立派の二つです。親中派は基本的には中国の主張する「一つの中国原則」に従うことで台湾が経済発展できると主張しました。

しかし、2020年1月11日、台湾総選挙にて現職の与党・民進党の蔡英文氏が圧勝し、国民は台湾を独立国家とする意志を鮮明にしました。

中国に背を向け、民主主義に基づく独立国家としての道を選んだ台湾は、中国にとって自国の面子を丸潰しにする許し難い存在です。

このような時機に、中国に恭順(きょうじゅん)の意を示したドゥテルテ大統領による援護射撃は、習近平国家主席をさぞかし喜ばせたことでしょう。

台湾と中国の歴史は複雑です。第二次世界大戦後に中国大陸で繰り広げられた中華民国・南京国民政府軍と中国共産党の内戦は、未だに台湾問題として尾を引いています。

1945年に蒋介石率いる国民党軍1万2000人が大陸を追われて台湾に逃げ込んで以来、両国の確執は続いています。

台湾問題については、後日別のシリーズにてわかりやすく紹介する予定です。

中国政府は「必要とあらば武力行使を辞さない」と公言してはばかることなく、最終的には台湾を統一する野望を未だに捨てていません。

中国が軍事的に台湾侵略に乗り出すとなれば、米中戦争が勃発する危険性もはらんでいます。

その際、台湾に近いフィリピンがどう動くのかは、戦いの帰趨(きすう)に大きな影響を与えると見られています。

ドン山本
ドン山本
その後、持ち前の放浪癖を抑え難くアジアに移住。フィリピンとタイを中心に、フリージャーナリストとして現地からの情報を発信している。

監修サイト:日本とフィリピンの第二次世界大戦

返事を書く

Please enter your comment!
Please enter your name here

セブ島留学 おすすめ記事