現状、コロナ禍による渡航制限が続いており、海外留学の予定をキャンセルせざるを得なかった人も相当数に上っています。
しかし、人類の英知が損なわれない限り、コロナが終息する日は必ず訪れます。再び自由に海外留学できる日に備えて、今はじっくりと準備を進めることに専念しましょう。
今回は海外留学の現状と傾向を振り返りながら、今後の留学トレンドについて考察してみます。
目次
1.海外留学する日本人は増えているのか、減っているのか?
「最近の日本人の若者は内向きだ」という声を聞いたことはありませんか?
そのことを証明するかのように「日本人の留学生数が減っている」との指摘が、報道機関を中心によく為されています。
でも、これって本当でしょうか?
海外留学する日本人は増えているのか、それとも減っているのかを明らかにするために、日本人の留学動向を探ってみましょう。
その1.なぜ多くの人は日本人留学生が減っていると思っているのか?
毎年春ごろに文部科学省は日本人の留学生数をまとめてメディアに発表しています。新聞・テレビ・Webなどの各メディアは、毎年この発表を大々的に紹介します。
下記が2017年までの「留学者数の推移」について発表されたデータです。
黒い折れ線グラフの推移を見てください。これを見ると80年代半ば以降、右肩上がりに順調に増えていた留学生数が、2004年をピークに毎年減少に転じていることがわかります。
それでも、2012年に60,138人を記録し、ようやく増加に転じたのもわずか、2013年は55,946人と、再び減少しています。そして2015年以降は緩やかに上昇に転じています。
近年、メディアはこの図表を見て「日本人留学生は減少の一途をたどっていたが、ここ数年で少しずつ増加している」と報道しています。
ちなみに、2014年までは「日本人留学生は減っている」と報じ続け、その理由として「若者が内向きになったからだ」と伝えてきたのです。
しかし、結論からいえば、マスコミの報道は間違っています。実際にはマスコミの報道とは真逆に、日本人留学生は2014年以前から一貫して増加傾向にあります。
では、なぜマスコミは間違えたのでしょうか?
その原因は、この統計の対象となっている「海外留学生」に「日本から海外に留学したすべての留学生が含まれている」と思い込んでしまったためです。
実はこの統計の「海外留学生」とは、「海外の大学や大学院等の高等教育機関で学ぶ日本人学生の数」を表しているに過ぎません。日本人に一番多い留学は、海外の大学や大学院ではなく、一般の語学学校で学ぶ語学留学です。
ところが、この統計には肝心の語学留学生の数は入っていません。また、中高生の留学も近年増加傾向にありますが、この数字も入っていません。
つまり、この統計に含まれていない海外留学生が数多いるということです。それらの数を考慮すると、日本人の留学生数は減少ではなく増加していたことがわかります。
統計のタイトルが紛らわしいため、海外留学の事情について詳しくない人に誤解を与えていることは残念なことです。
その2.国が約束! 意欲と能力のある若者全員への留学機会の付与
海外留学した大学生数の推移を見ても、増加傾向にあることは一目でわかります。
文部科学省の外郭団体にあたる独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)は、毎年大学生の海外留学生数をまとめて発表しています。下記が最新のデータです。
かなりの勢いで海外留学する大学生が増えていることがわかります。
では、なぜこれほどまで多くの大学生が海外留学をするようになったのでしょうか?
これには様々な要因が重なっています。景気が良くなってきたこと、企業が積極的に留学経験者の採用を開始し始めたこと、英語の必要性が増したことなどの要因をあげられます。
しかし、一番直接的な理由は、国が大学生の海外留学を増やす施策に大きな予算を割いて実施しているからこそです。
下のグラフは、「政府による日本人の海外留学に関する奨学金予算額の推移」を表したものです。
この表を見れば、年を追うごとに政府が海外留学に対しての奨学金を大幅に増加させている実態が見えてきます。表のなかの短期派遣のほとんどは、日本の大学経由で大学生に支給されています。また、政府は奨学金以外にも様々な施策を打うことで、日本人の若者に海外留学を促しています。
なぜ、日本政府は国をあげて日本人留学生を増やそうとしているのでしょうか?
そこには日本経済の特質が色濃く反映されています。日本の泣き所は天然資源に恵まれていないことです。それでもGDP世界第3位を誇る経済大国です。現在の日本の豊かさを維持するためには、日本が持つ最大の資源である「人材」の高度化を絶えず進めていかなくてはいけません。
世界のフラット化やグローバル化が進む現在は、そのような世界の中で活躍できる「グローバル人材の育成」を急ぐことが、国家にとって優先して取り組むべき事業となっています。そして留学こそは、グローバル人材育成のための強力なツールなのです。
近年、政府は日本の競争力を維持するためにグローバル人材の育成の脈絡で、海外留学の啓発に大きな予算を割いています。その方針のもとになっているのが、平成25年に閣議決定された「日本再興戦略」です。なんとこの中で「意欲と能力のある若者全員への留学機会の付与」が明記されているのです。
国がここまで日本人の海外留学の促進をコミットし、これほど大きなお金(予算)を投じて様々な施策を行うのは戦後初めてのことです。大学生にとっては、今がまさに留学する一大チャンスだと言えるでしょう。
留学の最大の阻害要因は経済的な問題です。そこに対して国から援助があるのは助かります。
大学生であれば是非政府の奨学金や助成金を利用してください。そして、お金の問題だけでなく、これからの自分の人生の中での英語の重要性や将来のキャリアを考えて、自分が留学すべきかどうかを考えてみましょう。
その3.社会人の留学はどうなのか?
海外留学に向かう大学生が増えていることがわかったところで、社会人はどうなのかと気になることでしょう。
残念ながら日本人の社会人や、会社を辞めて留学する人たちの数をまとめた統計は存在しません。
ただ私の30年を超える留学業界での経験から、景気が比較的良好で企業の人材採用が活発な時ほど、社会人や会社退職者の留学が増える傾向にあることがわかります。海外の教育機関の関係者に聞いても、その層の日本人留学生は増えていると、皆話しています。
ここでワーキング・ホリデイをする人たちの数字を見てみましょう。ワーキング・ホリデイの参加者は、ほぼ学生以外の会社退職者などと言えます。
表を見てわかるように、ワーキング・ホリデイで海外へ行く人たちも増加していることがわかります。現在ワーキング・ホリデイ制度を利用して海外に行く人は、毎年約2万人です。
ワーキング・ホリディビザ発給数の推移から類推すると、海外留学する社会人も増えていると見なして良さそうです。
2.日本人はどこに海外留学しているのか
大学生も社会人も含め、海外留学に赴く日本人が年を追うごとに右肩上がりで増えていることを確認したところで、日本人留学生がどこに留学しているのかを様々な統計からみていきたいと思います。
文部科学省がまとめた表を見ると、アメリカが1番であることがわかります。中国や台湾が2位・3位に上がっていることを意外と感じる方も多いと思います。中国の数字のなかには大学が運営している中国語講座への留学生の数も含まれているため、このような大きな数字になっています。
その1.協定等に基づく日本人学生留学状況
次に、大学の協定プログラムなどで留学している大学生の留学先を見てみましょう。
ここでもアメリカがダントツの1位になっています。次にオーストラリア・カナダと続きます。いずれも英語留学先として人気がある国ですから、この順位に特に違和感は感じません。
先程の表では2位3位だった中国や台湾は、それぞれ5位と7位になっています。
その2.協定等に基づかない日本人学生留学状況(在籍大学等把握分)
今度は協定に基づかない留学生(個人留学)の留学先を見てみます。
ここでも1位はアメリカですが、2位以降だいぶ順位は違っています。特に注目したいのは、フィリピンが第4位に位置していることです。
個人留学ではフィリピン留学の人気が高いことが見て取れます。
3.日本人の今後の留学トレンド
ここまで海外留学する日本人が順調に増えていることを確かめ、どこの国に多く留学しているのかを紹介してきました。
最後に、日本人の今後の留学トレンドについて見ていきます。
その1.世界規模で見る語学留学の実態
世界語学学校協会(IALC)の調査レポート『IALC Study Travel Research Report 2016』によると「2014年には世界で228万人もの人が語学留学をしている」ということです。
日本の語学留学マーケットは推定10万人弱ですから、欧米を中心にとても多くの人が語学留学をしていることになります。(日本以外のアジア諸国は進学留学がメインになります。)
レポートによると、全228万人の語学留学者の 61%にあたる約140万人が、英語留学をしていると報告されています。
実は世界中で一番ネイティブ言語として話されているのは中国語で、英語はネイティブ言語としては2番目になるそうです。中国人の膨大な人口の多さが、中国語を世界で最も多くの人が話す言語の座に押し上げています。
しかし、留学となると話は別です。中国語留学をするよりも、英語留学する人の方が数の上でははるかに上回っています。
やはり世界共通語としての英語の存在感は大きく、将来のキャリアなどを考えると英語を習得しなくてはならないと考える人たちが多いと、レポートでは分析しています。
このあたりの温度差は、まだまだ日本と違うようです。
本来であれば、日本人も欧米の非英語圏の人たちと同様に、今後の英語の重要性について十分に認識すべきです。ところが日本では、英語を習得しなければとんでもない不利益を被ることになるといった危機感をもつには至っていません。
それでも世界がグローバリズム化していくなかで、日本でも英語の重要性に気づく人たちが少しずつ増えていることは間違いありません。
開催が危ぶまれるものの来年に予定されている東京オリンピックや英語4技能テストによる英語入学試験改革など、今後英語習得の必要性が増していく中で、日本からの英語留学生は確実に増加すると考えられます。
その2.語学留学の目的は何か?
各言語によって語学留学の目的は違う傾向にあります。英語やドイツ語は語学学習後にその後の教育機関(高校・大学・大学院・専門学校など)に進む割合が高くなっています。一方、中国語やポルトガル語は、就職のために留学する人たちの割合が高くなります。
また、日本語留学者で最も多い目的として「個人的な理由」があげられています。日本文化や生活などから日本語学習に興味を持つ人が多いと思われます。
英語留学の目的の1番に上がっているのは「進学」ですが、2番目に大きいのは「就職」です。将来のキャリアを考えて英語留学する層は確実に増加傾向にあると、レポートでは分析しています。
その3.今後の日本人の英語留学のトレンドを読む
英語留学だけが英語習得の道ではないものの、留学が英語をマスターする上で一番の近道であることは確かです。
コロナ禍による世界を繋ぐネット社会到来の影響もあり、日本社会における英語習得の必然性や重要性は、今後ますます高まる傾向にあります。コロナの脅威が去りさえすれば、英語留学をする日本人が増加することは容易に予想できます。
英語留学のトレンドとしては、留学先の多様化をあげられます。英語留学先として人気のあるアメリカ・オーストラリア・カナダばかりでなく、マルタやアイルランドなど比較的費用が安く英語留学ができる欧米の国や、インド・マレーシア・シンガポールなどへの英語留学も増加してくると私は予想しています。
それは海外留学が単に語学習得だけを目的にするものではなく、その国の文化や習慣を知ることができる強力なツールだからです。
経済がグローバル化するなか、今後、インドやアジアの英語公用語諸国と日本との接点は確実に増えることでしょう。それらの国で英語を使って活躍できる日本人の人材の必要性は確実に高まり、これらの国への留学も増加することになると予想できます。
もちろん、フィリピンへの留学も今後ますます盛んになっていくことでしょう。個人留学を中心にフィリピンを留学先に選ぶ人が近年激増していることは、先に紹介したとおりです。
絶対数ではまだまだ上位のアメリカ・オーストラリア・カナダなどには及びませんが、伸び率ではフィリピンが圧倒的に高くなっています。フィリピン留学の需要は今後も減ることはないでしょう。
日本をはじめ、世界的に東南アジアやインドへの注目度が高まっています。それらの地域の経済成長が著しく、それらの市場を取り込むことができれば、世界各国に今後莫大な富をもたらすとみなされているためです。フィリピンも含むASEAN10か国には6億人、インドには約12億6万人のマーケットがひかえています。
これまで世界経済は、中国への投資や貿易への依存度を高めてきました。しかし、コロナ禍を契機に中国リスクが顕在化した今、中国離れが世界的な潮流として加速しています。
中国に代わり、新興マーケットである東南アジアやインドに進出する国家や企業は確実に増えています。
ASEANやインドで活躍できるグローバル人材への需要が、日本でも高まることでしょう。需要が高まれば、供給されるのが経済の基本です。その流れのなかで国内大学の留学プログラム、企業派遣の留学、そして個人留学においても、東南アジアやインドへの留学が増えてくると思います。
ただし、現状の受け入れ態勢を考えると、フィリピンはASEAN諸国の中で一番日本人にとって留学しやすい国だと言えるでしょう。
フィリピン留学がASEAN諸国への留学の牽引役になることは、今後も変わらないと予想できます。
その4.中国語留学は増えるか?
世界経済が中国へ注ぐ視線は、数年前に比べると大きく変わってきています。かつては中国への投資が盛んに行われ、貿易も活発に行われていましたが、今や中国の覇権主義は欧米から危険視されるようになり、中国リスクを避けようとする動きが世界的に高まっています。
その意味では中国語を習得するメリットは、ここ数年で大きく退潮したといえるでしょう。
しかし、距離的に近い中国と日本企業との結びつきは深く、米中対立の構図がはっきりしてきたとはいえ、簡単に縁を切れるようなものではありません。現代においても中国語を習得する価値は十分に高いと思われます。
ただし、今後の日本が結びつきを深めていくのは、中国ではなく台湾ではないでしょうか。中国とは異なり、民主主義という共通する政治体制をもつ台湾のほうが日本企業との親和性は高く、健全なパートナーシップを築けるとの見方が広がっています。
それになんといっても台湾は、世界一といっても過言ではないほどの親日国家です。反日に染まる中国や韓国とは異なり、真の友人として信頼できる関係を築いていけることでしょう。
そうした流れのなかで、今後伸びると私が確信しているのが、台湾への中国語留学です。カントリーリスクが大きい中国と違い、親日国家である台湾への留学生は現在でも増加傾向にあります。
台湾留学に力を入れる留学エージェントも増えてきており、安く安全安心して中国語を学べ、そして地元の大学にも入学しやすい台湾留学は、今後も確実に増加すると思われます。
中国語の需要は、中国語本土や台湾に住んでいる中国人に限定されるわけではありません。シンガポールやマレーシアにも、多くの中国系の人たちが住んでいます。さらに、いわゆる華僑の人たちは世界中にいます。
特にフィリピンを含む東南アジアの華僑は、その国の経済を動かすだけの力を持つ存在でもあります。つまり中国語ができるということは、「力を持つ華僑の人たちとも親交をもつためのパスポートを持っている」ことを意味します。
彼らとは英語でコミュニケーションをとるよりも、中国語でコミュニケーションをとる方が確実に心証がよいのです。
現在日本でも英語でビジネスができる人たちが既に一定層存在します。でも、世界2大言語である英語と中国の2言語を駆使して仕事ができる日本人となると、まだまだ稀な存在です。
私は今後、英語だけでなく中国語も語学留学によって習得する日本人が増えることを期待しています。
しかし、あくまで英語の習得を優先すべきであることは指摘するまでもありません。英語を習得した後に中国語の習得を目指すとよいでしょう。
中国語を習得するメリットは甚大ですが、世界共通言語として認知されている英語を習得する価値に比べれば、どうしても見劣りします。
まずは、英語の習得を目指してみてください。留学への扉は、あなたの目の前に開かれています。ぜひ勇気を出して、一歩を踏み出してみてください。
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