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留学マナビジンセブ島留学【特集】フィリピンの政経と歴史【海外出稼ぎ労働 第2部 2/3】虐待と差別の狭間で...フィリピン人の中東でのメイドの暮らしぶり

【海外出稼ぎ労働 第2部 2/3】虐待と差別の狭間で…フィリピン人の中東でのメイドの暮らしぶり

フィリピン人海外出稼ぎ労働者は国家の英雄か、捨て石か? 第2部全3回の第2回目です。

第2章 虐待と差別の狭間で

現在、海外出稼ぎ労働者にとって最も大きな問題となっているのが、繰り返される虐待と差別です。ドゥテルテが大統領に就任以来、この問題に真剣に取り組んできたこともあり、フィリピンでは連日のように海外出稼ぎ労働者の虐待問題が大きく報道され、国民の関心も高まっています。

ドゥテルテ大統領は主に中東諸国に向けて、何度も懇願してきました。様々な言葉を用いて訴えていますが、要約すれば次のひと言に尽きます。

「フィリピン人を人間として扱ってほしい。お願いします」

その悲痛な叫びは、海外出稼ぎ労働者の多くに共有されています。彼らを襲う激しい虐待と差別の問題は、一人の人間として扱われていないことに、その本質があります。

ことに悲惨な状況におかれているのは家事労働者です。家庭という密室に閉じ込められた家事労働者は、他のいかなる職種に比べても虐待にあうリスクが高まります。

彼女たちはしばしば、「現代の奴隷」と呼ばれています。

1.外国人労働者は現代の奴隷なのか?

外国人労働者は現代の奴隷なのか?

1-1.家事労働者が背負う搾取と虐待のリスク

「奴隷」と聞くと、ずいぶん過去の話で今の時代にはそぐわないと思うかもしれません。かつてはアメリカで、アフリカから強制的に連れて来られた黒人とその子孫たちが奴隷にされていました。奴隷に読み書きを教えることは法律で禁じられ、雇用主が奴隷をその身分から開放することに対しては厳しい制限がかかっていました。

白人によるアフリカとアジアの植民地化は、多くの奴隷を生み出しました。しかし、それらはすべて過去の話です。アメリカでは奴隷が開放され、他の欧米諸国にしても先の大戦を契機に植民地を失うとともに奴隷制度は消え去りました。

では21世紀を迎えた現代、奴隷という存在は根絶されたのでしょうか?

国連(UN)の国際労働機関(ILO)、国際移住機関(IOM)と人権団体「ウオークフリー・ファウンデーション(WFF)」が行った合同調査「2017 Global Estimates of Modern Slavery」(世界現代奴隷推計)によると、現在、奴隷と呼ばれる状態に陥っている人の数は、全世界で4030万人にも上るとされています。

この数字には大きな意味があります。奴隷は根絶されるどころか、実は年々その数が増え続けています。

長年奴隷問題に取り組んできた作家ベンジャミン・スキナー氏は、「私たちは今、人類歴史上最も多くの人が奴隷として働く時代に生きている」と語っています。

調査によると現代の奴隷は2,490万人が強制労働の被害者であり、1,540万人が強制結婚の被害者でした。

奴隷の絶対数がもっとも多いのはアジア太平洋地域で、奴隷全体の62%を占めています。アジア太平洋地域で強制労働の犠牲者になっている割合は、およそ1000人に4人です。

現代の奴隷の71%にあたる2900万人近くは、女性と少女です。強制労働をさせられている人々のうち、その4分の1は一般家庭内で奴隷状態におかれています。

こうした統計からも一般家庭に閉じ込められた状況で働かざるを得ない家事労働者が、強制労働の被害者になるリスクは高いといえます。

実際、海外で働くフィリピン人家事労働者は多くの被害にあっています。何ヶ月も賃金が払われていない、寝る時間がほとんどなく24時間近く働かされている、休日がまったく与えられていない、身体的あるいは性的暴行を受けているなどの事例は、数え切れないほど報告されています。

搾取と虐待にあうリスクは、家事労働者に常につきまといます。家庭内という外部から遮断された空間では、そのなかで何が起きているのかをうかがい知ることができません。すべてはブラックボックスのなかに閉ざされています。

家事労働は純粋な労働契約に基づいて行われています。ところが多くの雇用主が契約であることを忘れ、あるいは意図的に無視することで、家事労働者を奴隷のように扱っています。

かつては香港やシンガポールで家事労働者の虐待が目立ちましたが、現在はサウジアラビアやクウェート・カタールなど中東諸国での目に余る虐待ぶりが問題視されています。

1-2.中東でのメイドの暮らしぶり

中東でのメイドの暮らしぶり
ドバイやサウジアラビアなどのショッピングモールに出向くと、子供を連れた多くのアラブ人女性を目にします。彼女たちの大半はアバヤと呼ばれる美しい黒装束を身にまとい、高級バッグを片手に優雅に歩いています。唯一さらしている目元には、念入りにメイクが施されています。

彼女たちから数歩下がった後ろには、まったく化粧っ気のないアジア人女性が大量のショッピングバックを抱えながら、ベビーカーを押しています。その身なりは、いかにも粗末です。

外国人メイドを連れてショッピングに出かけることは、アラブ人女性のひとつのステイタスシンボルです。なかには複数のメイドを引き連れるアラブ人セレブもいます。

アラブ人女性は身なりが乱れることを嫌うため、どこへ行くにも子供と荷物はすべてメイドに預けます。

中東諸国での雇用主とメイドの関係は、昔ながらのご主人様と奴隷の関係そのものです。

雇用主が贅を尽くした食事を取る傍ら、メイドはいくらお腹が空いていてもじっと待ち続けます。雇用主の食べ残したものが、メイドの食事です。

それでも食べられれば、まだましです。仕事ぶりがなってないと食事を抜かされることもあります。食事がとれないため、犬に餌を与える際に雇用主の目を盗んでドッグフードを食べて生き延びたメイドの実話が、先頃フィリピンで報じられていました。

中東でのメイドの勤務時間は毎日16~20時間にも及びます。睡眠時間はわずかです。雇用主がふかふかの高級ベッドで眠りにつくとき、メイドは命じられた仕事を黙々とこなし、深夜、あるいは明け方になってようやく身体を横たえます。しかし、ベッドどころか布団を与えられることもありません。台所の冷たい床の上で、しばしの眠りにつきます。

雇用主によっては殴る、蹴るなどの身体的な虐待を加えられることもあります。熱湯をかけられる、棒で殴打される、熱したアイロンを押しつけられる、ベルトで鞭打たれる、ハサミで身体を傷つけられるなど、虐待の手口は様々です。虐待というレベルを超えて、なかには拷問としか思えないケースもあります。

性的な虐待もあとを絶ちません。上半身裸で働かされた、暴行された、家庭内の男性全員に暴行されたなど、ここでも多くの事例が報告されています。

中東ではなぜメイドが、奴隷のような扱いを受けることが多いのでしょうか?

1-3.習慣として残る奴隷制度

中東では「奴隷」という存在がイスラム教成立の時期から当たり前だったことを、まず理解する必要があります。イスラム教の開祖にあたるマホメット自身が奴隷を所有していたため、イスラム原理主義に従う限り、奴隷という存在を悪いことと捉える考え方がありません。

紆余曲折はあったものの西洋社会、及びその影響を強く受ける日本社会においては、奴隷という存在がいること自体が悪です。しかし、それはひとつの価値観に過ぎず、イスラム社会では共有されていません。

イスラム諸国で奴隷制が禁止されるようになったのは、イギリスやフランスなどのヨーロッパの列強が中東の地を植民地化したあとのことです。近代化に伴い今でこそ法的に奴隷の所有は禁じられていますが、その歴史もさほど深いわけではありません。たとえばサウジアラビアで奴隷制度が廃止され、すべての奴隷が解放されたのは 1962年のことです。

イスラム圏では昔から奴隷は、戦争や略奪の戦利品でした。奴隷は「人間の形をした道具」として扱われ、差別されてきたのです。奴隷が売買の対象になることも、ごく普通のことでした。

ただし、だからといってイスラム諸国を一概に野蛮と捉えることも正しくありません。奴隷が差別されていたことはたしかですが、アメリカの黒人奴隷とは異なり、その身分は固定されたものではありませんでした。

教育を施される奴隷も多く、奴隷の身分から司令官や執政官、さらには君主の位にまで登り詰めた事例も数多くあります。イスラム教の教えてにおいても両親に対するときと同様に「奴隷に対しても優しくあれ」と戒めています。

どうやらイスラム社会と西洋社会では、「奴隷」という言葉の意味合い自体がかなり異なるようです。

奴隷制度とは別に男女間の差別や民族ごとの差別も、イスラム圏にはあります。日本に留まっているとあまり感じることはないでしょうが、アジア人は世界的に差別されることが多々あります。日本人とて例外ではありません。

中東ではアジア人の女性は、最下層と見られがちです。さらに国家ごとの差別も行われます。フィリピン人は医者やエンジニアなど社会的ステイタスの高い人々も中東で仕事に就いているため、少しだけ格上に見られています。インドネシア人の方が状況は悲惨です。

外国人メイドを雇うにあたり、雇用主は斡旋業者に対してはじめにかなりまとまった額を払っています。そのため、外国人メイドを金で買ったという間違った認識をもつ雇用主も少なからずいます。

勘違いをしている雇用主にとって、外国人メイドは奴隷も同然です。イスラム社会は伝統的に奴隷に人権を認めません。そもそも「人権」そのものが西洋的な価値観の産物であり、イスラム社会には相容れません。

生まれながらにして人の身分に差があるのは、イスラム社会では当然のことです。奴隷の扱いについてはコーランの教えが守られることはなく、冷酷非情が目立ちます。

外国人メイドを奴隷と考える雇用主に雇われたら最後、人間としての暮らしは終わりを告げることになります。そのことがときに、命さえも奪われる悲劇につながっています。

2.クウェートでなにが起きたのか

クウェートでなにが起きたのか
https://www.philstar.com/headlines/2018/03/29/1801361/ より引用

クウェートで行方不明となっていた29歳のフィリピン人メイド、ジョアンナ・デマフェリスさんの遺体が冷蔵庫のなかで発見される事件を受け、フィリピンとクウェートの関係が悪化しています。

フィリピンでは反アラブ運動が高まりを見せ、世論は激高する一方です。いったい今、なにが起きているのか、時系列で追いながら整理してみます。

2-1.出稼ぎメイド惨殺事件のもたらした余波

家族の生活を支えるためにジョアンナさんが出稼ぎ労働者としてクウェートに渡ったのは、2014年のことでした。彼女は3ヶ月に1度の割合で家族に電話をしていましたが、2016年の9月を最後に連絡が途絶えてしまいます。

今年の2月に入り、雇用主のアパートにおかれていた冷蔵庫の中から、変わり果てた姿になったジョアンナさんの遺体が発見されました。

捜査の結果、ジョアンナさんは雇用主である夫婦に絞殺されたことが判明しました。ジョアンナさんは雇用主夫婦から日常的に虐待を受けており、目が腫れて見えなくなるほど殴られることもあったと報じられています。

虐待の末に殺されたことがわかると、フィリピンの世論はクウェートに対する怒り一色に染まりました。クウェートでフィリピン人メイドに対する虐待が深刻化していたことは、以前から懸念されていました。ついに殺されるという最悪の事態に至り、フィリピン国民の怒りは頂点に達したのです。

ドゥテルテ大統領も拳を振り上げました。すでにドゥテルテ大統領は今年の1月に、クウェートでフィリピン人メイドのレイプ事件が頻発したことを受け、メイドの派遣を禁止にする措置をとる可能性について言及していました。

その際にはクウェートに頭を下げて懇願しています。

「クウェートは同盟国だから、これについては率直に言わせてくれ。(中略)お願いだから、中東の他の国のためにも何とかしてほしい。わが国の人々を人間として、尊厳を持って扱ってくれないか?」

麻薬撲滅戦争では断固とした強い姿勢で臨むドゥテルテ大統領ですが、クウェートに対してはあくまで低姿勢に徹し、これ以上フィリピン人労働者がひどい目にあうことがないようにと礼を尽くしながら苦言を呈している姿が印象的でした。

この発言は、フィリピン人メイドが暴行を受けて自殺を図った直後に出されたものです。フィリピンは自殺率が低い国として知られていますが、中東に渡ったフィリピン人メイドの自殺数は異様に多くなっています。

クウェートではこの2年間ほどで、フィリピン人196人が「健康上の理由」で死亡しています。そのすべてを病死と考えるには、明らかに数が多すぎます。その大半は過酷な労働環境に耐えかねての自殺ではないかとも見られています。

あるいはジョアンナさんのように、人知れず殺されているフィリピン人もいるのかもしれません。ジョアンナさんの事件はたまたま表に出てきた氷山の一角に過ぎないと考えられるからです。

ジョアンナさんの事件を知り、ドゥテルテ大統領の堪忍袋の緒はついに切れました。クウェートへの新規出稼ぎを全面的に禁止するとともに、現在クウェートにいる出稼ぎ労働者のうち、ビザが切れたあともクウェートに滞在している1万人に対して無償で帰国便を提供する措置をとりました。

「皆さんが帰国して快適に暮らせるよう、魂を悪魔に売ってでも財源を調達する」

その力強い言葉に、ドゥテルテ大統領の決意がにじみ出ています。

さらに、「アラブ人らは雇ったフィリピン人女性らを日常的にレイプし、毎日21時間働かせ、残飯を食べさせている」と、今回は厳しくクウェートを非難しました。

「フィリピン人は誰に対しても、どこででも、奴隷ではない」

フィリピン国民がドゥテルテ大統領の言を熱狂的に支持したことは説明するまでもないでしょう。

しかし、中東諸国はフィリピン政府の強硬な姿勢に一斉に反発を強めています。

2-2.対岸の火事では済ませられない中東諸国の事情

中東諸国にとってクウェートで起きていることは、対岸の火事ではありません。サウジアラビアにしてもアラブ首長国連邦にしても、中東の多くの国がフィリピン人労働者を必要としています。

今回はたまたまクウェートで事件が発生しましたが、フィリピン人メイドに対する虐待と差別の問題は中東諸国に共通して見られる現象です。いつ、自国で同様の事件が起きてもおかしくはない状況なのです。

現に4月には、サウジアラビアで働いていたフィリピン人メイドが雇用主に無理やり家庭用漂白剤を飲まされる事件が起きています。病院で手当を受けたことで最悪の事態だけは避けられましたが、もう少しで命を落とすところでした。

フィリピン経済が海外出稼ぎ労働者からの海外送金に支えられていることは第1部にて詳説しましたが、中東諸国にしてもフィリピン人労働者がいなければ経済が回りません。フィリピンにしても中東諸国にしても、どちらの国も出稼ぎ労働者に深く依存する経済構造ができあがっているため、出稼ぎ労働者がいなくなっては本音では困るのです。

今回、ドゥテルテ大統領が素早い動きで「クウェートでの新規労働を禁止する」という強硬な姿勢を表明し、フィリピン国民がそれを歓迎したことは、中東諸国にとっての大きな脅威です。

シルベルトレ・ベロ労働雇用相は、中東諸国に向けて次のような声明を出しています。

「大統領が最も懸念しているのは、海外のフィリピン人労働者の安全と暮らし向きです。この禁止命令は、クウェート政府やその他のアラブ諸国に対して、私たちの方針では海外のフィリピン人の保護や安全が最優先であるいう強いメッセージを伝える方法なのです」

中東諸国で長年に渡って繰り返されてきた虐待や酷使という現実に対し、ドゥテルテ大統領の下した決断は確実に一石を投じたといえるでしょう。

2-3.フィリピンとクウェートの外交問題に発展

フィリピン側の強硬な姿勢に押されるように、クウェートもようやく「フィリピン人出稼ぎ労働者保護協定」に原則として合意することを表明しています。

ここ2年に渡り、フィリピンはクウェートとの間に「労働者保護協定」を結ぼうと働きかけてきましたが、クウェートには無視されていました。今回の事件を契機に、ようやく協定が結ばれようとしています。

フィリピン外務省によると、現在クウェートでは約26万2000人のフィリピン人が働いており、その60%近くが家政婦です。彼女たちは雇用主の家庭に入るとパスポートを取り上げられ、携帯電話も取り上げられます。

パスポートを取り上げるのは逃亡を防ぐため、携帯電話を取り上げるのは家族や外部との接触を断つためです。

今回の協定では、パスポートや携帯電話の保有など家政婦としての権利を認めること、なおかつ最低でも月収400ドル(約4万3,000円)を支払うことなどが盛り込まれています。

両国は3月に「クウェート在住のフィリピン人労働者保護協定案」に署名しましたが、同協定案にはフィリピン人労働者のクウェート出稼ぎ禁止令の解除要請が含まれているため、実際に協定が結ばれるか否かは先行き不明です。

(注:5月に協定が結ばれましたが、内容までは確認できていません)

この時点でドゥテルテ大統領は、ジョアンナさんを殺害した犯人がきちんと裁かれるまでは、クウェートへのフィリピン人出稼ぎ禁止命令を撤回しないと言明していました。

ジョアンナさんを殺害した雇用主夫婦は逃亡先で身柄を拘束され、4月に死刑判決が下されました。しかし、それでフィリピンの世論が静まるはずもなく、両国の関係は冷えたままです。

そんななか、フィリピン外務省が公開した映像が新たな波紋を呼んでいます。問題となった映像は、クウェート人の雇用主宅から逃げ出すフィリピン人メイドをフィリピン大使館の職員がクルマで救出するものです。

まるでスパイ映画を見ているような緊迫感に満ちています。このフィリピン人メイドは雇用主から虐待を受け、大使館にSOSを発信していたとのことです。

フィリピン大使館はすでに、200名のフィリピン人労働者を保護していることも伝えられました。

この動画を見て激怒したのはクウェート政府です。大使館員が直接救出に加わり、このクルマが大使館に入って行ったことを受けて、「主権侵害だ」と怒りを露わにしました。

映像に映っている3人の運転手は、まもなく身柄を拘束されています。

これに対してフィリピンのカエタノ外相は記者団に対し、「クウェートのフィリピン大使館が行った行為によって感情を害したのであれば、私は相手国の外相に謝罪し、われわれはクウェートの政府・国民・指導者たちに謝罪する」と語っています。

しかし、クウェート側の怒りは収まることなく、外相の謝罪を拒否した上でフィリピン大使を国外追放とし、大使館の閉鎖を通告しました。

カエタノ外相は、「大使館職員は生きるか死ぬかの状況に対応しただけであり、フィリピン人を守るというとっさの行動のなかでなされた行為」であると述べています。

フィリピンとクウェートの外交問題がこじれるなか、ドゥテルテ大統領は4月29日、これまで一時的な措置に留まっていたクウェートでの新規労働の禁止を、恒久的に禁止とすることを発表しました。

(*注 後日、家事労働者を除く一部の新規労働者の渡航が解除されました)

両国の外交上の対立関係は、さらに混迷の度合いを深めています。

3.中東での虐待を解決するために必要なこと

3-1.正規ルートを閉ざすだけで問題は解決するのか?

問題が起きると対象国に対して一時的に新たな労働者の送り出しを禁止にすることは、これまでも何度か繰り返されてきました。ほとぼりが冷めた頃には制限が解除され、再び同じような虐待事件が起きることの繰り返しです。こうした経過から明らかなように、一時的な渡航禁止は問題の根本解決につながっていません。

その意味では、今回ドゥテルテ大統領がクウェートへの家事労働者の出稼ぎを恒久的に禁止にしたことは画期的な措置といえます。

しかし、それだけで虐待と差別にまつわる問題が解決するわけではありません。第1部でも紹介した通り、正規ルート以外にも海外で就労する手立てはいくらでもあるからです。

クウェートでの就労が法的に閉ざされることで、需要と供給のバランスから斡旋業者の取り分が跳ね上がります。フィリピン人メイドを必要とするクウェート人は多数います。危険とわかっていても、高い給与を提示されればクウェートでの出稼ぎを希望するフィリピン人も数多くいます。

正規ルートが閉ざされることで数自体は大幅に減りますが、それでも働くために裏口からクウェートに渡ろうとするフィリピン人はあとを絶たないことでしょう。闇ルートを通してメイドの仕事に就けば、今以上に虐待にあうリスクが高まります。

海外で待っている現実が奴隷労働であったとしても、家族がまともな暮らしを送るために必要とあれば、志願するフィリピン人は必ずいます。正規ルートを閉ざすだけでは、根本的な解決には至りません。

3-2.現代の奴隷を生み出すカファラ制度

非営利の国際人権組織であるヒューマン・ライツ・ウォッチは「渡航禁止は虐待のリスクを高める」ことになると、警告を発しています。さらに「渡航を禁止するのではなく、出稼ぎ労働者を保護するための改善策について両国で合意することが大切だ」と指摘しています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが具体的にあげたのは、カファラ制度の廃止です。カファラとは保証人制度のことで、出稼ぎ労働者に対してスポンサーをもつことを義務づけるものです。

スポンサーになるのは通常、雇用主です。カファラ制度によって出稼ぎ労働者の在留資格(ビザ)や法的地位の責任が雇用主に一任されます。そのため、雇用主の同意がない限り、出稼ぎ労働者が仕事を辞めることも転職することもできません。

カファラ制度は、中東で数多くの現代の奴隷を生み出している温床です。クウェートばかりでなく、カファラ制度は中東諸国で広く実施されています。

たとえばフィリピン人メイドが雇用主から虐待を受けていても、カファラ制度が足かせとなるため簡単には逃げ出せません。雇用主のもとから許可なく勝手に逃げ出すことで、彼女たちの在留資格が取り消されてしまうからです。つまりカファラ制度の下では、雇用主から逃げ出したフィリピン人メイドは「逃亡」の罪を犯した犯罪者になってしまいます。

警察に保護を求めるわけにもいきません。警察に捕まれば罰金を科されたあと半年間も刑務所に送られ、そのあと強制送還されることになるからです。

一方、雇用主が罪に問われることはまずありません。理由のいかんに関わらず、逃亡という大罪を犯したフィリピン人メイドだけが罰を与えられます。

この現実は、あまりにも理不尽です。カファラ制度があるため、どれだけ虐待されようと搾取されようと、多くのフィリピン人メイドは黙って耐えるよりありません。

仕事を辞めることも、転職することも、労働者としてもっている当然の権利です。カファラ制度そのものを廃止しない限り、労働者としての人権を手にすることさえできません。

「フィリピン人は誰に対しても、どこにいても、奴隷ではない」と宣言したドゥテルテ大統領の宣言を実現するためにも、カファラ制度の廃止が待ち望まれます。

出稼ぎ労働者の多くは、差別と虐待・酷使のなかで堪え忍ぶという現実があります。国はそれを十分に知っていながらも、これまで有効な対策を打つこともできないまま、問題を先送りにしてきました。

「国家の英雄」と持ち上げられる一方で、海外出稼ぎ労働者はいわば国家の捨て石としての役割を負わされていたのです。

果たして彼らは国家の英雄なのでしょうか?それとも、捨て石なのでしょうか?

その答えは、今後のドゥテルテ大統領の舵取りにかかっています。

次回はシリーズの最終回です。ドゥテルテ政権のもと、フィリピンで起きている劇的な変化について紹介します。

ドン山本 フリーライター
ドン山本 フリーライター
タウン誌の副編集長を経て独立。フリーライターとして別冊宝島などの編集に加わりながらIT関連の知識を吸収し、IT系ベンチャー企業を起業。

その後、持ち前の放浪癖を抑え難くアジアに移住。フィリピンとタイを中心に、フリージャーナリストとして現地からの情報を発信している。

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