このところ留学の形が大きく変わってきています。従来までの留学に変わって、オンライン留学の利用者が激増しているためです。
そこで、『一般社団法人海外留学協議会(JAOS)による日本人留学生数調査』調査レポートを紐解きながら最新の留学事情を探るとともに、オンライン留学のメリットとデメリットについてまとめてみました。
目次
1. 変わりつつある留学の形
2019年から2021年度にかけて、従来型のオフライン留学生の総数を表したのが次のグラフです。
2019年に比べて、2020年と2021年の留学生総数が激減していることがわかります。その原因は新型コロナウイルスのパンデミックです。
コロナの蔓延を受けて、これまで留学生を受け入れていた国々のことごとくが門戸を閉ざしました。どれだけ強く留学を望もうとも、実現できない状況が続いたことになります。
その代わり、従来までのリアル留学に変わって人気を伸ばしているのがオンライン留学です。
グラフをひと目見て明らかなように、オンラインを利用して留学を果たした人の数が半数を超えています。
JAOS統計調査によると、海外に渡航する従来型のオフライン留学生数が6,109人、一方、海外の教育機関の授業を日本で受講するオンライン留学に参加した日本人留学生数が8,974人でした。
コロナの影響でリアル留学ができないなか、オンラインを活用することで留学体験をした人が多かったことが読み取れます。
オフラインからオンラインへと、留学の形は確実に変わってきているといえそうです。
2. オンライン留学が増えている理由とは
(1)オンライン留学とは
オンライン留学には海外の大学でITやビジネススキルなどを英語で学ぶ専門的なコースもありますが、この記事では英語を学ぶことを目的とするオンライン留学に絞って解説していますので、ご了承ください。
オンライン留学とは、インターネットを通じて海外にある学校の授業を受けることにより、リアル留学と同じような体験のできる語学プログラムのことです。
「バーチャル留学」と呼ばれることもあります。
オンライン留学とオンライン英会話を同じようなものと誤解しがちですが、両者はまったく違います。
オンライン英会話は自分の好きな時間に授業を予約できますが、オンライン留学は海外の語学学校で行われている正規の授業をインターネットを介して受講するため、スケジュールが固定されています。
授業時間も異なります。オンライン英会話では25分程度の授業が一般的ですが、オンライン留学の授業時間は1時間ほどです。1日に数コマを受講する必要があるため、まとまった時間がとれないとオンライン留学に参加できません。
先生が固定されているかどうかも、両者は異なります。
オンライン英会話ではレッスンごとに先生を予約することが一般的です。そのため、毎回同じ先生に教えてもらえるとは限りません。
しかし、オンライン留学では毎日同じ先生がレッスンを担当します。
オンライン留学に参加するということは、語学学校に入学することと同じです。
(2)オンライン留学は、なぜ始まったのか
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、大学をはじめとする多くの教育機関ではオンライン授業を取り入れました。
その結果として、インターネット環境が充実した今日では、教室に集まって行われる授業とオンライン授業との差が、ほとんどないことがわかってきました。
オンラインを活用すれば双方向でのコミュニケーションが可能となるため、チャットや音声通話をとおして意見交換もできます。提出物の回収も一瞬で終わります。
教室で行われていた授業がオンラインへと移行するなか、長らく止まっていた留学生の受け入れをインターネットを活用することで再開する動きも次第に広がりました。
各国が外国人の入国を規制したため、留学したくてもできなかった留学希望者の多くは、オンラインをとおしてバーチャルに留学体験ができるオンライン留学に飛びつきました。
オンライン留学の人気ぶりは、先に紹介したJAOSの調査からも明らかです。
今ではオンライン留学は、留学の新しい形としてすっかり定着しています。
たとえコロナが終息したとしても、リアル留学とともにオンライン留学は残るとみられています。
これまでリアルで学ぶのは海外留学や英会話スクール、オンラインで学ぶのはオンライン英会話といった棲み分けがなされていましたが、オンライン留学の登場により、そのボーダーが崩れたといえます。
3. 人気の高い留学先の国はどこ?
では現在、留学先として人気が高い国はどこでしょうか?
オフライン留学とオンライン留学では、留学先が大きく異なります。
まずは、オフライン留学の国別留学先を見てみます。
オフライン留学先として人気が最も高い国は、例年と変わらずアメリカです。JAOSの調べによると、ことに大学に進学した学生がアメリカに留学する比率が高い傾向を示しています。
アメリカに次いで多くの留学生が向かったのはカナダです。その理由として、コロナ禍でもカナダは早くから留学生の受け入れを再開したことが好影響を及ぼしたと考えられます。
アメリカとカナダで合わせて65.4%を占め、他国を大きく引き離しています。
次にオンライン留学先を見てみます。
オフライン留学とは留学先がガラリと変わっています。最も人気が高いのは、ほぼ半数を占めるフィリピンです。
コロナ前からオフライン留学先としてフィリピンは人気でした。しかし、フィリピンは深刻なコロナ禍に襲われ、外国人の入国を規制しました。
その結果フィリピンでは、リアル留学の代わりに始まったオンライン留学へと多くの留学生が流れていきました。
さらにフィリピンのオンライン留学は、他国のプログラムに比べて時差が少ないことや費用が格安なことで人気を博したと考えられます。
最後に、オンラインとオフラインを分けることなく、留学先を比較したのが次のグラフです。
総合的に見ても、トップはフィリピンでした。次にオフライン留学で人気の高かったアメリカ、カナダが続いています。
コロナが完全に終息するまでは、この傾向が続くと予想されます。
4. オンライン留学のメリット
人気が高まっているオンライン留学ですが、リアル留学やオンライン英会話と比べてみるとメリットとデメリットがあります。まずはメリットから整理してみます。
(1)オンラインでも正規留学同様の授業を受けられる
インターネットを介してではあるものの、海外の大学や語学学校にて正規留学で行われている授業をそのまま受けられることが、オンライン留学の魅力です。
長年留学生に言語指導をしてきたプロの語学講師が授業を受け持つだけに、質の高さを期待できます。
オンライン英会話ではサービス提供会社ごとに先生の質が異なります。大学生がアルバイトとして雇用されている事例も多々あります。
しかし、オンライン留学では語学学校によるレベルの高い正規の授業を受けられるため、安心感があります。
(2)留学生同士で交流ができる
オンライン留学では、世界各国から集まった留学生と一緒にグループレッスンが組まれています。
英語学習に意欲的な仲間に囲まれることで高いモチベーションを維持できることも、オンライン留学の良いところです。
留学生同士の交流も盛んに行われています。その際、用いられるのはもちろん英語です。授業以外でも国際色豊かな仲間と英語を用いてコミュニケーションをとることで、英会話力が身につきます。
(3)少人数制になりがち
オンライン留学はオフライン留学に比べて少人数制になりがちです。そのため講師の指導が行き渡り、結果的に英語力が向上する傾向にあります。
ことにフィリピン留学では、もともとマンツーマンレッスンが多い特色がありましたが、オンライン留学にも受け継がれています。先生1人に生徒1人のレッスンが多いほど、英語力の伸びを期待できます。
(4)通常の留学よりも格安
オンライン留学にかかる費用は、リアル留学と比べて格安です。授業料が安いことはもちろん、航空券代や海外旅行保険費、宿泊代や食費、交通費などの滞在費もかかりません。
オンライン英会話に比べれば費用は高めですが、授業時間の多さや質の高さから十分に釣り合いがとれているといえそうです。
(5)一気に集中して英会話を身につけられる
オンライン留学は数週間から数ヶ月と期間が決まっています。その間、密に授業のスケジュールが組まれているため、一気に集中して英会話を身につける環境に自分を追い込めます。
短期集中で英会話力を養いたいのであれば、オンライン留学は最適です。
5. オンライン留学のデメリット
次に、オンライン留学のデメリットについても確認しておきましょう。
(1)海外生活は体験できない
オンライン留学では実際に海外に身をおけないため、英語圏での生活そのものを実体験できません。
このことは、現地の人との交流をとおして文化や価値観の違いを学ぶことができるリアル留学との大きな違いです。
リアル留学のメリットとして自立心が育つこと、問題解決能力が上がることをあげられますが、オンライン留学ではそれらを期待できません。
(2)時差がある
オンライン留学では、現地で講師がリアルタイムで授業を行います。そのため、時差が生じることに注意が必要です。
ことにアメリカやカナダのオンライン留学では時差が大きくなりがちのため、受講が難しい場合があります。
フィリピンなどアジア圏の学校を選べば、時差は少なくてすみます。
(3)日中の授業が多い
時差の少ない方が生活リズムを合わせやすいことはたしかですが、問題は語学学校が授業を行うのは、基本的に日中に限られることです。
時差がわずかなフィリピンなどの場合、日中に組まれている授業に参加する必要があります。そうなると、日中に仕事をもつ社会人や昼間の授業に出席する学生では対応できません。
オンライン英会話のように片手間で活用できる手軽さが、オンライン留学にはありません。
(4)積極性が求められる
リアルであれオンラインであれ留学で英語力を伸ばすためには、積極的に英語を用いてコミュニケーションを取る姿勢が大切です。
ましてオンライン留学の場合は、リアル留学以上に積極性を求められます。
たとえばオンラインでの授業では、どうしても対面に比べて発言のタイミングが難しくなります。わからないことがあったときには積極的に質問をしないと、理解が深まりません。
授業以外にも、きちんと予習・復習を行っていないと、授業についていけなくなります。授業をただ受けているだけでは英語力は身につきません。積極的に予習復習を行う必要があります。
6. まとめ
オンライン留学には意味がないといった極端な意見もありますが、ここまで見てきたように、オンライン留学にはリアル留学に負けないだけの魅力があります。
メリットとデメリットを踏まえたうえでオンライン留学を上手に活用すれば、英語力を大きく伸ばせそうです。
短期間に集中することで英会話を一気に身につけたいのであれば、オンライン留学はおすすめの勉強法です。
コロナの終息後もオンライン留学が存続すると見られているのは、「オンライン留学によって英会話力が伸びた」との声が多いためです。
今やオンライン留学はリアル留学の単なる代替ではなく、リアル留学前の準備として、あるいは海外に渡航しなくても留学ができる「新しい留学のスタイル」として、定着しています。
しかし、日中に英語学習ができる時間を長くとれない場合は、オンライン留学は不向きです。
その場合はオンライン英会話を利用するなど、個々のライフスタイルに適した学習法をとることをおすすめします。